年末には毎年恒例の「流行語大賞」や「今年の漢字」など
その一年を総括するイベントが相次ぎ、年が明けてからは
「今年はこれがくる!」「今年のトレンド予測」といった特集が組まれるなど、
年末年始にかけて意識させられる「流行」という二文字。
最近の流行と言えば昨年からずっと好調な「妖怪ウォッチ」や
先日当ブログでも取り上げられた「YouTuber」が頭に浮かびます。
(一方、つい数日前まで「ラッスンゴレライ」も「あったかいんだから」も
全く知らなかったことに焦りを覚えました)
この「流行」、我々の業界でも非常に大切な要素です。
マーケティング分野で重要なのはもちろん、
レイアウトやビジュアルといった狭義でのデザイン表現においても流行はありまして。
2015年もふた月目に突入して久しい今日この頃ですが、
今回はこの、流行ってなんだろう、ということを
学生時代に学んだ知識も掘り返しながら、ちょっと考えてみたいと思います。
Ⅰ 流行の構造
◎トレンド? ブーム?
流行の意味でよく使われる言葉に、「トレンド」と「ブーム」があります。
手始めにこれらの違いを調べてみます。
するとこれらは、マーケティング用語上、
流行の“期間”の長短で使い分ける言葉であることが分かりました。
「トレンド」は1年〜3年といった長期的な流行、
「ブームは」は3ヶ月〜1年の短期的なものを指すとのこと。
さらには3ヶ月未満の一時的な流行を指す「ファッド」という言葉もありました。
◎流行の始まりから終わりまで
次に流行の発生から収束までの大まかな流れを
「製品ライフサイクル」と「イノベーター理論」というものを参考に考えてみます。
非常にざっくり言うと、
製品ライフサイクルは製品売り上げの推移、
イノベーター理論は消費者をマインドで分類したものです。
【製品ライフサイクル】
製品ライフサイクルは以下の4段階で構成されています。
メーカーなどではこれの各段階の売上見込み、コストや利益などを
予測計算して、戦略を立てたりします。
1.導入期:製品が市場に現れて、徐々に販売数が上がる
2.成長期:製品が広く受け入れられ、売れていく
3.成熟期:製品が消費者すべてに行き渡り、売れ方が減速する期間
4.衰退期:製品が売れなくなる期間
4段階の時間軸と売り上げ推移を可視化したのが下の図です。
一番左のものはなんか見たことある感じの基本形ですが、この他にも、
新規顧客開拓などで上昇・下降が繰り返される形や、
買替え需要などで最終的に売り上げが一定値に維持されるパターンなど
売り上げ曲線にはいくつかパターンがあります。
【イノベーター理論】
ある革新的な商品やサービス(イノベーション)が世の中に普及していく段階を、
消費者の商品購入に対するスタンスから分析したものです。
1.イノベーター(革新者)
新しいもの好きな人 新しさを最重要視する人/市場の2.5%
2.アーリーアダプター(初期採用者)
オピニオンリーダーとも呼ばれる 流行に敏感で他の消費者への影響力が高い人/13.5%
3.アーリーマジョリティ(前期追随者)
ブリッジピープルとも呼ばれる 平均よりは早く新しいものを取り入れる人/34%
4.レトロマジョリティ(後期追随者)
フォロワーズとも呼ばれる 周囲の多くが試しているのを確認してから追随する人/34%
5.ラガード(遅滞者)
イノベーションが伝統になるまで採用しない 流行に関心が薄く最も保守的な人/16%
イノベーター理論では、消費者は以上の5つに分類され、
1〜5の順番でイノベーションが普及していくとされます。
まず注目したいのはイノベーターとアーリーアダプター。
一見似ているようにも思えますが、
イノベーターは重視するポイントが新しさ自体であるのに対して、
アーリーアダプターはベネフィット(利益)に注目します。
つまり、イノベーターは基本的に新しいものには何でも食い付いてくれますが、
その後アーリーアダプターに“価値がない”と判断されたものは
そこで振るい落とされてしまう訳です。
またアーリーアダプターの、他の消費者への影響力が強いことも重要な点です。
そういった点で、イノベーター理論の提唱者、
スタンフォード大学のエベレット・M・ロジャース教授は
アーリーアダプターを重視していたそうです。
この2者は合計しても市場の16%と少ない数ですが、
その先へイノベーションが広がっていくかは、
アーリーアダプターの支持を勝ち取れるかに懸かっているということです。
そしてもう一つ、この理論に加えて
米マーケティングコンサルタントのジェフリー・A・ムーア氏の提唱した
「キャズム理論」というものもあるそうで。
上記アーリーアダプターとアーリーマジョリティの間には
“容易には超えられない大きな溝(キャズム)”がある、という分析結果から、
大規模な普及を起こすためには、アーリーアダプターへの訴求に加えて、
アーリーマジョリティに対するマーケティングも必要である、という理論です。
◎まとめ
以上の情報を、流行に置き換えて、次のようにまとめてみました。
<流行のライフサイクルと流行に乗る人たち>
ライフサイクルの期間:長・トレンド/中・ブーム/短・ファッド
1.導入期
状況例:新商品や特徴的なお笑いネタが生まれ、一部の人が注目する。
流行に乗る人:イノベーター
2.導入期〜成長期
状況例:流行に敏感な人達がブログで取り上げたり。ネットの各所で目にすることが増えたり?
流行に乗る人:アーリーアダプター
3.成長期
状況例:テレビの情報番組で良く目にするようになる。職場や学校でも話題になったり。
流行に乗る人:アーリーマジョリティ
4.成熟期
状況例:最早知らない人はいない程の知名度。絶頂期を越えてそろそろ食傷気味?
流行に乗る人:レトロマジョリティ
5.衰退期
状況例:定着するか消え去るか、運命の分かれ道。
流行に乗る?人:ラガード※
※ラガードは「流行が定番化するまで採用しない」ので、
流行が衰退して消え去った場合、この層は最後まで採用しないことになります。
例)定番化するか衰退するか
定番化した流行:最初はグー、ティラミス など
衰退した流行:ワイルドだぜぇ、ヨーグルトきのこ など
※具体例に他意はないです
Ⅱ 「先取りする」から「生み出す」へ
◎メディアの重要性
流行に言及する上で、「メディア」の要素は欠かせません。
人は様々なメディアから情報を得て、流行を知ります。
メディアで「よく聞く/よく目にする」ものが、
すなわち「流行っている」ものだと印象づけられる訳です。
メディアの種類・名称は数多くありますが、
ここでは3つを取り上げてみます。
1. マスメディア
若干死語になりつつある4マスという言葉もありますが、
情報伝達の速度や手軽さから、
テレビやラジオはまだまだ強いメディアだと思います。
また、カテゴリーに特化して整理された情報を得られる雑誌も、
個人的には好きなメディアです。
2. パーソナルメディア
僕自身耳慣れない言葉ですが、マス(公)ではない、
私的なメディアをこう呼ぶことがあるそうで。
より専門っぽく言うと「CGM(コンシューマー・ジェネレイテッド・メディア)」
と言う言葉もあります。
個人同士が内容を生成するメディアということで、たとえば口コミやSNS、
動画投稿サイト、価格.comやAmazonなどのレビューもこの要素を含んでいますね。
3. キュレーションメディア
近年注目を集めてきている分野ですが、
例えば公のニュースを集めて編集している「ニュースサイト(アプリ)」
などがこれにあたります。
キュレーションの意味としては「情報を収集・分類・結合して新しい価値を生み出す」
みたいな感じだそうです。
ネット上には無数に存在しますが、有名なものだと「Antenna」「Gunosy」などでしょうか。
メディアの特徴としては個人の嗜好に合わせて受け取るニュースを選別できたりする点。
感覚的には1と2の中間のようなイメージです。
大規模な流行を起こす上で、昔はマスメディアの役割が極めて重要でした。
皆が同じものを見聞きしてた、コミュニケーションがシンプルだった時代は、
その分流行の規模も大きく、国民的スターやアイドルなども生まれやすい環境でした。
が、ネットの普及につれて個人間のコミュニケーションの速度・範囲が、
それまでとは比較にならないほどに向上しました。
一方で、たとえばテレビ番組の放映中に
同時にネット上で感想や実況を伝え合うといったことが可能になるなど、
消費者を取り巻くコミュニケーションの形が複雑化したことで、
流行を読む・予測することが非常に困難になりました。
また「トレンド」や「ブーム」など中長期的規模の流行の発生が少なく、
短期的な「ファッド」が多いのも近年の特徴です。
まあ、ファッドの期間は3ヶ月未満なので、和訳的には「流行」というよりも
「今話題のネタ」程度の方がしっくりくるような気がしますが。
ともあれこのような状況から、ビジネス上では流行を「読む」ことよりも
「作る」ことを重要視しています。
◎「流行ってる感」の醸成
では流行を作る、とはどういうことでしょう。
思うに流行とは、風潮であり感覚的なもので、
あるコミュニティの中で「これ流行ってるね」と多数が認めた時に生まれます。
マイブームという言葉があることから、言葉としては矛盾していますが
ここでのコミュニティの最小単位は1人だと思われ、
大小に関わらず流行は流行として成立すると言えますが、
ことビジネスが絡むと、その規模は求める利益に応じた大きさを
クリアしないといけません。
それでは、規模の大きな流行は、どうやったら作れるでしょうか。
マスメディアを軸に考えれば、まず頭に浮かぶ方法は露出を増やすことでしょう。
CMが流れる、バラエティ番組に出る、映画化される、
ニュースや情報番組で取り上げられる、などなど。
いわゆる「ゴリ押し」とも揶揄されがちな手法ですが、
広範囲に向けて訴求できるし、一定の効果は見込めそうです。
ただどれも費用がかさんだりハードルが高いので
「一定の効果」と天秤にかけるコストとのバランスを見極めなければなりません。
それでは、もう少し規模を縮小し、
マスメディア以外に目を向けた場合はどうでしょうか。
有名な手法の一つに「バズマーケティング」や
「バイラルマーケティング」といったものがあります。
いずれも口コミマーケティングと呼ばれるものですね。
用語としてはバイラル(意:ウィルス性の)の方が自然伝播するもの、
バズ(意:蜂の羽音)が人為的に伝播させようとするもの、
という説明を見つけましたが、実際には混同されて
同じような意味で使われているように感じます。
口コミマーケティング自体は昔からある手法ですが、
上述のようにパーソナルメディアが発達した現在、
うまく機能させられれば、低コストで高い効果が見込めるため、
その効果や重要性が増しています。
(一方で、消費者をだます卑怯な手段として批判的な見方もあります)
この手法をとる上で最も重要なことの一つは、
ターゲットの選定とマイニングです。
消費者に情報の伝達を委ねるのですから、
彼らのニーズに適したベネフィットを提示できなければ失敗するのは当然ですし、
流行らせたい・話題にさせたい商材を、
それを求めている人たちに提供するというのは商売の基礎とも言えますが。
Ⅲ 流行とどう付き合うか
今回自分なりに調べたり考えたりしてみて改めて思うのは、
流行、その多くは誰かが故意に仕掛けたものですが、
長期的に流行するものや定番化するもの、規模の大きなものって案外、
それを生み出した本人も意図していなかったことが多かったりするなぁ、ということ。
そして制作会社の人間として、この流行とどう付き合っていくべきかを考えると、
そりゃあ流行を次々と生み出せるような人材になるのが理想的だと思いますが、
ラッスンゴレライを知らなかった僕的には、そのずっと手前に、
世の中の流行をもっと広く知ることが急務だったりします。
あらゆるものに流行があり、流行とはすなわちターゲットの心理の現れなので。
芸術家ではない僕たちにとって、何か新しいものを生み出すためには、
何が新しくないかも知っていなくちゃいけないというのもあります。
世の中を広く知るためにはアンテナを広く張らなくちゃなりません。
出来るだけ多くのものに触れる・出来るだけ多くの人と会うというのが大事ですよね。
(実際なかなか難しいことですが)
さらに大切なのは、そうして得た情報を自分なりに咀嚼することと
それをちゃんと覚えておくことでしょうか。
…今年こそ有言実行となるよう、頑張ろうと拳を固める今日この頃です。