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2012.09.10 (月) Category:マイブーム

デザイン会社を含む多くの職業に言えることですが、人の興味に訴えることを生業としている立場としては、普段から世の中の流行に気を配ったり、人が何に興味を示し、面白いと感じるのか、に敏感でいること(いようと意識すること)はとても大切なことです。

そんな切り口から、今回は僕が最近ハマっているちょっとマニアックな題材についてお話ししようと思います。
こんにちは、ディレクターの岩澤です。

みなさんは『やる夫スレ』というものをご存知でしょうか?

僕が初めてこれと出会ったのは数年前のことでした。
その時は「なんだこれ、面白いじゃないか」という印象を持ったものの、webをブラウズする機器はPCしか持っておらず、自宅PCで長時間ネットに勤しむ習慣もなかったので、あまりのめりこむことはありませんでした。
しかし最近スマホの扱いにも慣れ、なんとなく再び読みはじめてみたところ、これが実に面白く「なんだこれ、面白いじゃないか!!」という勢いで通勤時や寝る前など合間を見つけては読みふけるようになってしまいました。

そうです。『やる夫スレ』とはwebで公開されている「読み物」の一種です。

「スレ」とは「スレッド」の略語で、この場合掲示板サイトの大カテゴリーやひとつひとつの「板」を示す言葉です。
そして「やる夫」とは、某巨大掲示板サイト「2ちゃんねる」で誕生したキャラクターの名前です。
つまり『やる夫スレ』は、2ちゃんねるの掲示板上で綴られる「やる夫」が繰り広げる物語のことです。
(やる夫以外が主人公の作品もありますが。)

少し調べてみたところ、やる夫スレは2007~2008年に2ちゃんねるで大流行し、現在に至るまで実に多くの作品(と言ってしまいます。便宜上。)が生み出されています。
それらを収集、編集した「まとめサイト」と呼ばれる外部サイトもいくつかあり、そのおかげで僕のように2ちゃんねるに詳しくない人間でも、容易に数年前の「良作」を読むことができます。

まず僕がこれまで読んだものを幾つかピックアップしましたので、
ご覧いただくと分かりやすいかと思います。

やる夫がゲームクリエイターになるそうです

やる夫のロマンシングなサーガいきなり3

やらないキッチン

・1つめは僕が初めて読んだもの。
主人公やる夫がひょんなことからゲーム制作会社に入社してすったもんだ、
というお話です。

・2つめは昔のゲームを題材に、キャラクターをやる夫その他に置き換えた
いわゆる「二次創作もの」です。
かなりの長編ながら熱い展開やふんだんなギャグで最後まで面白く読めました。
(「四大長編のひとつ」として数えられているそうです)

・3つめは一番最近読んだものです。
「やらない夫」を主人公にし、とある洋食屋を舞台に繰り広げられる短編集的コメディ。
長過ぎず短すぎず、読みやすく面白かった。

※この他にも政治、宗教、歴史、経済その多諸々のテーマで描かれた作品があります。

/// やる夫スレの概要///

ご覧いただいて何となく気がつかれた通り、やる夫スレはいくつかの特徴的な要素で構成されています。

〈1〉アスキーアートと文章で綴られる物語
やる夫スレは、文字や記号を絵を描くように組み合わせた所謂アスキーアート(通称AA)とセリフや地の文を組み合わせて作られた「場面」を、連続して投稿することで描かれる絵本のようなものです。
後述しますが、この「AAを使用する」というのは、やる夫スレの魅力に大きく関わってきます。

〈2〉作者は不特定多数
やる夫スレと呼ばれる様々な物語は、誰か特定の1人あるいはグループが管理・作成している訳ではなく、不特定多数のユーザー達が思い思いに投稿しています。
そのため作品ごとの完成度にばらつきがあったり、完結していないケースもあったり、社会の倫理から大きく外れ、読んでいる人の気分を害する可能性を孕んだものなども当然あります。
一方で、凄く面白かった・いい話だった・勉強になったと思えるものもありますし(まぁ感想は個人に由来するので参考程度と思って下さい)、
とりあえず作品の品質に基準がある訳でもなく、基本何を書こうと自由、ということです。

〈3〉共通するキャラクター
AAの使用と並んでやる夫スレの極めて重要な要素、それがキャラクターです。

____
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/( ●)  (●)\
/:::⌒(__人__)⌒::: \
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〈やる夫〉
2ちゃんねるから誕生したキャラクターで、当然『やる夫スレ』の語源。
多くの物語上では「ニート」や「オタク」など2ちゃんねるユーザーが考える駄目人間の典型として描かれる。
ほとんどの語尾に「○○だお」がつく。

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/   _ノ  \
|   ( ●)(●)
|    (__人__)
|    ` ⌒´ノ
|        }
ヽ       }
ヽ    ノ
/    く
|     \
|    |ヽ、二⌒)、

〈やらない夫〉
やる夫と同じくオリジナルのキャラクター。
作中ではやる夫とは対照的にしっかり者の常識人で、やる夫に非常に近いポジションとして描かれることが多い。
口癖は「○○だろ、常識的に考えて。」

やる夫スレには実に様々なキャラクターが登場しますが、やる夫スレをやる夫スレとして成立させるための主要人物がこの2人、やる夫・やらない夫です。
(厳密にはやる夫が最重要人物ではあるんですが、やらない夫の存在も同じくらい大きいので紹介しました)

この他にも、さまざまなオリジナルキャラクターが存在する他、既存の漫画やアニメ、ゲームのキャラクター、実在の人物がAA化されて登場します。
面白いのは既存の漫画etcのキャラクター達が、原作のキャラクター設定や個性をひきずったまま登場し、スレごとに異なる役を演じることです。(癖のある役者が舞台ごとに違う役を演じているところ想像して下さい)

語る作者も語られるストーリーも違うのに、全体で『やる夫ワールド』としてのまとまりが成立するのは、ひとえにキャラクターの共通性に基づいており、それを実現するための要素が「AAの使用」と「キャラクター設定の尊重」なのだと思います。

本来イラストのタッチというものは描く人によって変化するものですが、AAを使用することで見た目の印象は均一になり、より作品ごとの「シリーズ感」が強まります。
また『暗黙のルール』に基づくキャラクターごとの設定をキープすることで、作品ごとで多少の振り幅はあるものの、作者・読者の間に「やる夫/やらない夫はこういう性格」というような共通認識ができあがり、新しい作品も違和感なく読み始められる土壌となるのです。

〈4〉随時書き込まれる読者のコメント
やる夫スレを少し読んでみれば分かる通り、スレ上では作者が物語を順番に投稿している間でも、読者の声が随時書き込まれていきます。
話 の流れを妨害するような内容はマナー違反となりますが、ギャグへのツッコミや急展開に際して書き込まれる感嘆の声や合いの手などは、物語を盛り上げるエッ センスとなり、作品の魅力を押し上げる効果を果たしています。また「安価(アンカー)遊び」のような読者参加型の仕掛けが盛り込まれた作品もあり、web 掲示板の特性が活きた展開が楽しめます。

※安価遊びとは、作者がスレッド内の特定のコメント番号を指定し、その番号のタイミングで書き込んだ読者が、物語のその後の展開などを選べたりする仕掛けです。

/// やる夫スレのどこが面白いのか ///

以上がやる夫スレを構成する主な要素ですが、次に、
なぜやる夫スレが流行したのか、またなぜ僕がこれを面白いと感じるのか、その理由を考えてみます。

○共通アイコンとして機能するキャラクター・そのアイドル性
まず挙げられるのは、「やる夫」「やらない夫」というキャラクター達です。
物語を語る上でキャラクターは不可欠な存在ですが、やる夫スレの無数の物語には、筆者が異なるにも関わらず、ほぼ全て「やる夫」や「やらない夫」が主役格として登場します。
主人公キャラを統一することで、それぞれ別々であるはずの物語が、あたかもシリーズ物を読んでいるかのように感じ、次第にやる夫達に対して愛着が強くなっていきます。
これには、各スレッド内で構築された、やる夫達の行動パターンや喋り方の癖などの基本設定が強く作用しています。
キャラクターごとに設定されているある種の「お約束」を守ることで、読者に対して「おなじみ感」を与え、すんなりと物語に引き込むことが可能になる訳です。
そうして作品数が増えるごとに、やる夫達の、キャラクターとしての厚みも増していくのです。

こういった現象は、最近はテレビCMや企業とのコラボレーションなどですっかり有名になった「初音ミク」に代表されるボーカロイドブームに関しても、当てはまる部分がある気がします。
世の中の色々な人が、プロデューサーとして、自分の作った楽曲を「初音ミク」に歌わせることで人の目につきやすいようになり、また、初音ミクは自身の曲が増えるごとにアイドル(偶像)としての存在感を増すことになります。

当然どちらも読者やファンといった支持者の存在が不可欠です。

実体のないキャラクターを、それをとりまく人達が次々に肉付けしていくことでアイドルとして完成させていく構図が面白く、
またやる夫に限って言えば2ちゃんねるから誕生したキャラクターなので、まさに、自分たちのアイドルをゼロから作り上げていく様が非常に興味深く感じます。

○ライブ感と一体感
やる夫スレに限らず、キャラクターがアイドル化するために支持者は重要な役割を果たしますが、それに加えて、掲示板サイトで展開される物語のあり方としても、読者の書き込みは必要不可欠だと思います。
彼らは物語の受け手であると同時に、物語を盛り上げる演出的な立場や、(上述の安価遊びなどで)物語の展開自体を左右する因子でもあるからです。
丁度コンサートの観客のように、作者が綴るストーリーの起伏に合わせて歓声を上げることで、物語と一体となり、それが語られる「場」自体をドラマチックなものへと変貌させます。
(この辺りは動画とコメントがリンクして再生される「ニコニコ動画」などとも共通する部分があります)
ま た前述の「まとめサイト」の存在もあり、筆者と読者の一連の書き込みが後年まで保存されるのも魅力のひとつで、リアルタイム更新時でなくても(たとえば今 2008年のスレを読んだとしても)、当時の雰囲気が充分に伝わってきて、まるで複数の仲間と一緒に物語を追っているような感覚になります。

○ネット掲示板から自然発生した遊び
僕が、このやる夫スレに惹かれた一番大きなポイントは、これが、掲示板ユーザー達が独自に作り上げた遊びであるという点です。
ネッ トワークを利用した不特定多数で行なう「遊び」といえば、ネットゲームやソーシャルゲームの類いがまず挙げられますが、それらはルールや遊び方を企業が厳 密に管理し提供しているもの、意地悪く言ってしまえば企業が自社の利益の為にユーザーを誘導する仕掛けが施された「遊び」です。(勿論ネットゲーム、ソー シャルゲームなりの面白さがあり、それを楽しんでプレイしている人がいる以上全否定するつもりはありませんが)
これに対してやる夫スレ(など)は、掲示板のユーザー自身が、自分達の楽しみのために生み出し、進化させてきたものです。
そのため遊びの構造としてはシンプルで無駄がありません。自分たちの「楽しみ」に不都合な分、必要のない部分、は改善され、または切り捨てられるからです。
作者は自分の作った話で読者を楽しませるために、読者は作品を楽しむために、ゲストとホストが「楽しむ」ということに対して純粋かつ真摯な姿勢でいる様子は、エンターテインメントのあるべき姿が凝縮されているようで、見ていて心が洗われる気持になります。

/// 最後に ///

デザインについて考えるとき、人とコミュニケーションを通じて興味を持ってもらおうとするとき、相手を楽しい気持にさせよう・おもてなししようという姿勢は基本です。
また「良い」デザイン・仕事をするときには、自分自身が仕事楽しめるということが理想です。

ビジネスという視点から考えると、この『やる夫スレ』からそのまま役に立つ・参考になる要素は抜き出しにくいかもしれません。が、そこに存在する「ピュア」な楽しさ、エンターテインメントの核のようなものは、触れてみて損はないかな?なんて思います。

これを読んで少し興味が出た方は、息抜きにでも読んでみてはいかがでしょうか。
(初めての方は「やる夫  おすすめ」などで検索してみるといいかも知れません)

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