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iwasawa iwasawa
2014.04.20 (日) Category:Book

「物語シリーズ」というシリーズ小説があります。

 

西尾維新という作家さんの作品で、2005年から始まった小説です。

ジャンルとしては“ライトノベル”と言われるもので、まぁこのライトノベルという定義も実際かなり曖昧な分けですが、

 

A)いわゆる“萌え(≒萌絵)”を推している  B)書店のライトノベルコーナーにある

 

僕なりには、このいずれかを充たしたものがそうなのだと解釈しており、この「物語シリーズ」についていえば、“萌え的な要素”は確かに多く含まれているものの、それが作品の主眼かといえばそんなことはなく、ですが書店ではライトノベルコーナーにあるので分類はライトノベルでよいと思います。

ちなみに講談社が“ハイブリッド・レーベル”と銘打って2006年に開始した「講談社BOX」の、最初の作品の一つでもあります。

 

まぁジャンル分け自体にさして大きな意味はないのでそれはいいとして、今回はこのシリーズを取り上げて紹介したいと思っているのですが、それは、この作品に感じたクリエイティブでエンターテインな部分を他の方々にも知って欲しいという思いと、この度このシリーズが単行本17巻目にして“概ねの”完結を果たしたことへの感慨からです。

なお比率的には後者が8割です。

 

※以下より、「物語シリーズ」本編に関する若干のネタバレ要素を含みますが、ご容赦ください。

 

 

 

<物語シリーズ・概要>

 

http://bookclub.kodansha.co.jp/books/topics/nishio0401/

 

日本のとある町を舞台に、主人公・阿良々木暦(あららぎ こよみ/高校3年生)と彼を取り巻くキャラクター達の出会う「怪異」にまつわる事件を描いた物語です。

 

怪異、というものについてはこの作品独特の存在なので説明しづらいですが、ざっくり言うと妖怪変化や神様のようなものです。

シリーズを通して実にさまざまな「怪異」が、さも日本古来から言い伝えられて来たかのように登場しますが、ほぼ全て作者・西尾維新さんの創作だそうです。

 

これまで発刊された17巻の中では、“地獄のような”春休みから始まる彼らの大変奇特で濃密な1年間(一部例外あり)が綴られており、最新巻「終物語<下>」では、大学受験から卒業式までをもって阿良々木暦の“青春の終わり”が語られます。

 

上述では“概ねの完結”と書きましたが、これで主となるストーリーは完結しており、次回発刊される「続・終物語」はおまけ的な位置づけになるものと思われます。

 

元々は講談社の小説誌「メフィスト」への投稿用に読み切りとして開始されたものが、連載となり、気づけば今日まで続く長編シリーズとなったそうです。

あとがきでもたまに語られるように、もともと一冊予定だった物語が<上・下>になったり、更に間に<中>が入ったり、そもそも発刊する予定でなかったお話が急遽一冊分発刊されたり(しかもシリーズ中最多ページ数)と、ファンにとっては大変ありがたい気まぐれをしばしば起こす作家さんなので、次回で終わると言いながら、あと2~3冊くらい出るんじゃないの(チラッ)なんて思わせてくれます。

 

また、アニメ化やドラマCDなどのメディアミックスも盛んにされていて、僕自身アニメを見たのがきっかけで読み始めました。

 

※こちらも大変良くできていて、クリエイティブな匂いがプンプンするので、多少、というか結構萌え色が強めですが、アニメに抵抗のない方には是非おすすめします。

 

化物語 TVアニメ PV: https://www.youtube.com/watch?v=pW_iylJq4gk

物語シリーズ アニメサイト: http://www.monogatari-series.com/

 

 

 

<単行本タイトル一覧>

 

◎ファーストシーズン

化物語 <上>・・・2006.11.1
化物語 <下>・・・2006.12.1
傷物語・・・2008.5.7
偽物語 <上>・・・2008.9.2
偽物語 <下>・・・2009.6.10
猫物語 <黒>・・・2010.7.28

 

◎セカンドシーズン 

猫物語 <白>・・・2010.9.29
傾物語・・・2010.12.27
花物語・・・2011.3.31
囮物語・・・2011.6.28
鬼物語・・・2011.9.28
恋物語・・・2011.12.20

 

◎ファイナルシーズン 

憑物語・・・2012.9.26
暦物語・・・2013.5.20
終物語 <上>・・・2013.10.23
終物語 <中>・・・2014.1.31
終物語 <下>・・・2014.4.2
続・終物語・・・2014夏予定

 

このシリーズが「物語シリーズ」というある意味あやふやな呼ばれ方をするのは、この単行本タイトルのせいです。

「化物語」としてスタートしましたが、「化」の部分が単行本ごとに変わっていきます。

ちなみにここにあてはまる漢字一文字「傷」「偽」「猫」・・・は、それぞれの本文の内容と関係しています。

また西尾維新という作家さんは非常に言葉遊びが好きなようで、たとえばファーストシーズンの「傷物語」「偽物語」は化物語と同じく“にんべん”であわせてあったり、セカンドシーズンの「傾物語」「花物語」「囮物語」にはよく見ると「化」の文字が隠れていたりします。

またそれぞれの本の中で「第○話」という章立てがされますが、ここも、必ずしも数字が入る訳ではなく、時々、「第閑話」「第変話」「第乱話」「第恋話」「第体話」といった表現が使われたりします。

 

文体としては基本的に阿良々木暦の視点で一人称的で綴られるのですが、巻によって“語り部”が他のキャラクターに替わることもあります。

常に規則的にという訳ではなく唐突に語り部が替わったりするので、お話によってはその意外性にびっくりします。

 

こういった、遊び心を本文意外の部分にも随所に散りばめるエンターテインメント性というかサービス精神が、この物語の魅力でもあります。

 

 

<“まじめ”に“ふざける”>

ストーリー自体の面白さ、次々と張りまくられる伏線・増え続ける謎、テンポのよい文章と言葉選び、散見する駄洒落のような言葉遊び、ネーミングのセンス、魅力的なキャラクター、設定や逸話を細部まで作り込まれた怪異などなど、このシリーズに感じる魅力を一つ一つ挙げればきりがないのですが、全体として最も大きいのは「期待を裏切ってくれるところ」だと言えます。

 

往々にしてシリーズものというのは、長く続くほど、ひとつの物語のストーリー展開などがパターン化されていく傾向にあると思います。
同じ世界に同じキャラクターが登場する以上当然で、それがある種の“お約束”として、作品の魅力となるのですが、回を重ねるごとに作品世界の厚みが増していく一方で、比例してマンネリ化の危険性も上がっていきます。

 

マンネリ化は即ち“飽き”につながりますが、それを回避するため、一般的には“テコ入れ”と称される新キャラクターの投入などが行われる訳で、それはこのシリーズにも言えることではありますが、上でも触れているように、このシリーズではしばしば突拍子もない“おふざけ”が行われます。

 

ある巻では一冊の8割近くがストーリーとは無関係なキャラクター同士の雑談に割かれたり、唐突に超重要そうな新キャラクターが現れたと思ったらすぐ死んでしまったり、中でも個人的にかなり衝撃的だったエピソードがあります。

 

ファーストシーズン「偽物語<上>」で、ある詐欺師が敵役として登場するのですが、これが、お金以外を信用せず、呼吸するように嘘を吐き、この世の不吉を凝縮したようなキャラクターで、阿良々木暦や読者に強いインパクトを与えます。結局その後、阿良々木暦の奮闘により詐欺師の巻き起こした事件はなんとか落着し、次巻「猫物語<黒>」からはまた別のキャラクターの別のエピソードが始まります。

そして時は経ってセカンドシーズン、このシーズンはファーストシーズンの印象と打って変わって、全体的に暗く後味の悪い話が続きます。

巻を追うごとに陰鬱な雰囲気は増していき、物語はシリアス度を上げたままクライマックスへと突入していくのですが、状況は最悪、希望的要素は無し。さてどう決着させるつもりだ西尾維新。と読者(僕)の気持ちを大いに引きつけたところで、シーズン最終巻「恋物語」、この巻の“語り部”が、それまで話に全く絡んでいなかった、上述の詐欺師だったのでした。

 

・・とまあ、なかなか伝わりづらいのは重々承知で申し訳ありませんが、およそ僕の想像の外で、僕も一応作品のファンですから、いろいろと展開を予想したりはしていましたが、可能性の一つとしても全く浮かばなかったことでして。
当時、書店から帰って意気揚々とページを捲ったらいきなり詐欺師の自分語りが始まったので、思わず声を出して笑ってしまいました。

 

とにかく「このタイミングでこんなことする!?」というようなことが、この作品ではしばしば平然と行われるのです。“驚かせる”というのはエンターテインメントの基礎だとは思いますが、この作品の場合、あまりにも度を超しているのでは、ということもままあります。

ですが大変素晴らしく、そして極めて重要なことに、その度を超したおふざけ・裏切りは結果として、物語を物凄く面白くする役割をしっかり果たすのです。(上記「恋物語」の評判はかなり良かったと聞きます)

一方では極めて素直に王道的かつ感動的に締めくくられるエピソードもあり、この期待の裏切りがいつ起こるかを予測することは困難なため、僕としては長く続いていても飽きることなく、次は王道かな?裏切りかな?といった期待も持って読めています。

 

いちクリエイターの経験則から敢えて言いますと、ふざけるだけ・常軌を逸脱する意外性だけを追求することは、そう難しくないことです。

ただその意外性を荒唐無稽で終わらせず、エンターテインメントに向かわせる推進力へと転換することはとても難しく、それを長期にわたって実現させているところ、そして読者へのサービス精神に溢れ、自身も楽しんで書いていらっしゃる様子がありありと伝わってくるところが、僕がこの作品と西尾維新という作家さんを尊敬している理由です。やはり、制作者は制作を楽しまないと!

 

純粋に物語を楽しむのはもちろん、自分の中になかった発想や表現など参考にしたい発見を沢山もらった作品です。

最終巻「続・終物語」の発売を少し寂しい気持ちで待ちつつ、この場を借りて未読の方へささやかに推薦させていただきます。

 

以上、ネタに困った時恒例の「僕の好きなものシリーズ」、今回は“物語”でした。

 

 

<メディア考察>

僕が、漫画やゲームやアニメが大好きだということは一定の範囲内で周知の事実ですが、それに加えて小説も好きだと言うことはあまり知られていません。
皆様におかれましてはそれこそ知ったこっちゃない話だと思いますが。

 

通勤時間やプライベートの時間が削られる中で、なかなか読書の時間を捻出するのが難しくなってきましたが、神奈川県の実家から通勤していた頃は電車の中でよく読んだものです。

小説に関してはサブカル方面とは異なり情報に疎かったので、“ジャケ買い”よろしく図書館でタイトルだけ見てインスピレーションで借りてみたり、ブックオフの100円コーナー限定で面白そうなものを探してみたり、そこには無知ゆえの、未知の良作・名作に出会うささやかな楽しみもありました。

 

漫画、ゲーム、アニメ、小説。一貫して言えるのは、僕は「物語が好き」だということです。

 

「物語」の魅力とは、自分の人生の中では触れることのないであろう別世界に、極めて容易に、そして速やかに旅することができる点だと思います。

映画やドラマ、劇、落語などなど世の中には古今東西実に様々な方法で物語が楽しめますが、僕にとっては、表現が現実から遠ざかるほど物語への没入感が強まる傾向にあるようで、実写よりも絵の方が、動画よりも静止画の方が、カラーよりもモノクロの方が、より深く作品に没頭できるようです。

 

恐らく、表現が現実に近づき、表面上のリアリティが増すほど、その物語世界が僕自身の現実とかけ離れている、或いは似かよっているという事実が強調されてしまい、うまく自分の意識をシンクロさせることができなくなるのだと思います。

 

勿論僕にも、素晴らしいと思った映画やドラマなどはありますが、たとえば登場人物が外国人であるだけで、その世界に対しての距離感を感じてしまいます。一方舞台が日本だったりキャストが日本人である場合、今度は描かれる世界が生々しすぎて「別世界へのトリップ」としては少し規模が足りないと感じます。作品が面白いかつまらないかという問題とはまったく別の話で。なんとなく物語に対して受動的といいますか、どうしても「鑑賞」している気分は拭えません。

 

これが絵や文章という形に視覚情報が排除されていくと、排除された部分を自分の想像で補完するようになります。

皆さんそうだと思いますが、「この人の声はこんな感じだろうな」「このシーン、周りの状況はこんな感じだろうな」といった具合に、制限された視覚情報から、頭の中で場面を再構築しているはずです。

その作業はほぼ無意識に行われる訳ですが、無意識ゆえに、自分の心地いいように解釈され、都合のいい補完がなされます。
想像力を働かせ、物語世界を自分の都合に合わせて最適化すること、それは言い換えれば作品に対して能動的に「参加している」ことなのでは、更に言えば、それは「自分なりに物語を二次創作している」ということではと思う訳です。

 

そして、本は自分のスピードで読み進めることができます。

疾走感のあるシーンはテンポよく、じっくり噛み締めたいシーンはゆっくりと、自分の好みに合わせて最適な速度で(大事な場面を見逃すこともなく)物語を堪能できます。

 

これらの、物語へのアプローチをコントロールできる余地の大きさこそが、漫画や小説の持つ最大の優位性なのだと思っています。

 

 

<後日談というか、今回のオチ>

私事ですが、最近電子ブックリーダーを購入しました。amazonのkindle paperwhiteです、はい。

これまで、結婚したり子供を授かったりで自宅の収納が逼迫し、漫画や本の購入に関してかなり厳しい制限を課せられていましたが、これのおかげでスペースを気にせずガンガン本を購入することができるようになりましたので、斯様に素晴らしき物語の世界、今後ますます楽しんでいこうと思います。

(実用書も読まなくちゃ、ですけどね!)

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